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『誇り』

10月21日(日)に行われた選手権東京都2次予選2回戦で渡邊真白主将の代での選手権が終わった。敗戦を受け入れるのには時間がかかりそうだが、新人選手権に向けての準備を進めて行かなければならない。受け入れ難い敗戦が現実である事と同時に、新人選手権を戦う事もまた現実だ。

試合自体は自分たちの優勢な時間帯が長かったものの、決定的に力の差を示せたかと言えばそうではなかった。特に自慢の攻撃陣が不発であった事が試合を苦しくした。とは言え失点の多かった「攻撃的なチーム」が選手権予選を無失点で勝ち上がって来たことは成長である。これはディフェンス陣だけが頑張ったのではない。前線から献身的に守備が出来たからこその結果だ。それだけに後から何度映像を確認してもゴールを割っていない相手の決勝点へは・・・。ベンチからでは確認出来なかったが、近くにいた全選手全がその事実を分かっていた。巷では入っていたシュートがかき出されたり等で、ゴールが認められない事はあるが、入っていないシュートがゴールを認められる事は稀であろう。現に相手選手も目の前にいたFW含めて誰一人ゴールをアピールする事無くプレーは続行された。今後私も審判をする機会があるだろうが、今まで以上に慎重にレフリングしなければと改めて考えさせられた。「疑わしきは罰せず。」が法の精神であり、サッカーのレフリングも同様だ。相手も疑惑のゴールではなく、しっかりと勝負を決めたかったのではないか。ただ『誇れる』のはウチの生徒たちだ。アピール含めて文句の一つでも言いたかったであろうが、それでもすぐにボールをセンターサークルに運び、懸命に同点ゴールを目指して戦い続けた姿は称賛に値する。後から本部席にいた他校の先生が教えてくれたが、アップ中の選手もクレームを言うことなく、「次だ、次。」とピッチ内の選手に声を掛けていたそうだ。そして試合の後、それを口にする者がいなかった事は称賛を超え、尊敬の念さえ抱く。もしかしたら、どこかでそれを口にしていたのかもしれないが、少なくともミーティングをして解散、会場を後にするまで私の耳には一切入ってこなかった。こんな素晴らしい選手たちに次の舞台が用意されない悔しさは一生涯忘れることは出来ないであろう。ただ相手校の選手も懸命に戦ってくれたからこそ、良い試合となった事は忘れてはならない。創価高校には是非、勝ち続けて西が丘のピッチに立って貰いたいと切に願う。

 

また今年のチームは関東大会からリーグ戦を含めて公式戦16試合、貰ったイエローカードは1枚のみ。リーグ戦で、キーパーが果敢に飛び出しPKを与えてしまった際に出ただけである。ウチでは「ズルいプレーへの評価は低い」。それを見事に体現してくれた代だ。もちろんプロフェッショナルファールという概念がある事は分かっている。「日本は国際大会でいつもフェアプレー賞を貰う」と皮肉も言われている。だがサッカーの本質から考えれば、フェアプレーは最も大切なことである。この試合でも相手に2枚イエローカードが出たが、ウチの選手たちは必要以上に痛がったり、相手を威嚇したりなどは一切せずにプレーを続けていた。相手が足を攣って倒れれば、ボールインプレー中にも関わらず足を伸ばしてあげていた。お人好しと言われるかもしれないが、倒れた相手に手を差し伸べられる人間に、なりたいと思って成れる訳ではない。厳しい試合で負けている状況であれば尚更である。試合のスコア上では負けたが、人としても圧倒的に勝っていたし、勝負でも負けていなかった。恐らく私を含めたスタッフより、保護者の方を含めた観客の方々より、あの時あの会場にいた全ての人々の中で、ピッチ内に居た我々の代表選手たちは紳士であった。それが何よりの『誇り』である。

 

敗戦の翌日から1,2年生はトレーニングを再開した。スタッフも含めて休養も必要なので全員オフのプランもあったが、翌々日には地区3部リーグが組まれていた。3部リーグチームのみの練習とも考えたが、ここまで全員で戦ってきて、試合に出た者も、そうでなかった者も同じ悔しさを味わっている中、やはり3部メンバーだけに背負わせず、全員でトレーニングをやるべきだと考えた。悔しい気持ちを押し殺して天王洲へ向かった。前日の試合に40分以上出場した者はオフと伝えたが、フル出場した者もトレーニングに参加していた。生徒たちはスタッフ以上に悔しかったにも関わらず、1,2年生は気持ちの入った集中力の高いトレーニングをしてくれた。新チームも3年生チームから引き継ぎ、積み上げ続けられると確信し、今年と同じか或いはそれ以上のチャレンジが出来ると期待が膨らむ。素晴らしい3年生たちへの恩返しは、我々が西が丘のピッチに立つことが何よりであろう。『誇り』から『誇り』の原石たちがバトンを受け取り、動き出した。

 

もう一つここに書かずにはいられないエピソードがある。敗戦後のミーティングで3年生に「選手権お疲れ様。少しの休養後に、残りのリーグ戦の為にトレーニングを続ける3年生を決めよう」と伝えた。当然進路もあり、センター試験を受ける者もいる。常日頃から「自分からサッカーを取ったら何も残らない様な人間になるな。」と伝えている。進路も自身の成長にとても大切な要素だ。数日のオフの中で、サッカーも進路も大切である中でしっかりと考え、自分自身で答えを導き出して欲しいと考えていた。試合の翌日、私は出張が入っており、午後のトレーニングからの合流だったので、翌々日に出勤すると、3年生の渡邊真白、比嘉直人、山元玲司、加藤寛士らが朝から1,2年生と共に自主練をしていた。驚きの風景であった。真白は痛めた足がまだ癒えていないにも関わらず。きっと最後の笛をベンチで聞かなければならなかった悔しさを押し殺してボールを蹴っていた。直人は最後の直接フリーキックのボールの軌道、蹴った瞬間の感覚は忘れられないであろう。玲司はずっとメンバー入りをしていたのに試合に絡めず、随分歯がゆい思いをしていたであろう。寛士はずっと干され続けて、練習に混ざれたのは3年の夏頃からであった。他にも私の眼には入らなかった者がいたのかもしれない。小倉先生にその話をすると前日の朝(敗戦の翌日)、小倉先生が朝、学校に行くと比嘉直人が自主練をやっていたそうだ。目頭が熱くなった。これも常日頃「選手権で西が丘に行く事は目標ではあるが目的ではない。目標が目的になってしまったら、目標が無くなるとサッカーを楽しむという目的自体も無くなってしまう事を意味する。それは負けて目標が無くなるだけでなく、目標が達成出来た時もまた同じ事が起こるであろう。それはとても恐いことだ」と説いてきた。とは言え、敗戦の翌日に、取り分け悔しい思いをした3年生が既に朝練を開始していた事に尊敬以上の感情を持った。本来はもっと休養が必要なのであろうが、サッカーは楽しいという本質を見失なわなければ、常に目標を設定し直してサッカーを楽しむことが出来る事を理屈ではなく体現してくれている3年生をまた『誇り』に思う。彼らの姿を見て、誰もが悔しいはずの選手権での敗戦を引きずっている自分を恥ずかしく思った。そしてまだ3年生と共に戦える真剣勝負が残っている事に感謝出来る様にもなった。生徒からまた一つ大切な事を教えられたのだ。

 

彼らの良い所を書こうと思えば、何千何万文字にも出来るであろう。しかしこれ以上は文字ではなく、残りのリーグ戦で勝利を得る為に、選手権以上の準備をして、プレーで表現させたいと思う。彼らにはその場が残されている。いや、その場を自分たちの力で掴み取ったのだから、昨年のチームを超えるチャンスはまだ残っている。そして何より、この期間を3年生と共に楽しみたい、今まで通り厳しく激しく更に奥深く。きっと彼らなら、もう一つの目標を達成して、笑顔で高校サッカー終了のホイッスルを聞く事が出来るであろう。そして自ら進むべき道を切り拓いて行くと確信している。3年生の戦いはまだ終わらない。